『テンペラ画』という絵画を、ご存じですか?
『絵画と言えば、やっぱり油絵じゃないの?』と思われる方も多いはず。
確かに多くの日本人の方は、絵画と言えば真っ先に、
麻布キャンバスの上に艶やかな絵具がコッテリと塗り重ねられた油絵をイメージするかもしれません。
しかし、テンペラ画は西洋の美術史において欠かすことのできない存在であり、
油絵にはない独特の美しさと、奥深い魅力を持つ絵画です。
ここではその歴史を少しひも説いてご説明いたします。
『テンペラ』という言葉の語源
イタリア語『Tempera(テンペラ)』の語源は、ラテン語の『Temperare(テンペラーレ)』で、
「混ぜ合わせる」という意味があります。
19世紀の産業革命により、上場でチューブ入り絵の具が生産されるようになるまでは、
画家は顔料と展色材を自分で混ぜ合わせて作っていましたので、
その行為を『Temperare』と言っていたようです。
顔料と油を混ぜあわせた絵具で描いた絵画を『油彩画』と呼ぶようになった今日では、
それと区別する意味で、顔料と卵黄を混ぜあわせた絵具で描いた絵画を特に『テンペラ画』と呼んでいます。
テンペラ画の歴史
西洋絵画と言えば『油彩画』を思い浮かべる方が多いと思いますが、
その歴史上の長い期間、その主軸はしっくいの壁面に描かれたフレスコ画や
石膏の下地を施した板に描かれたテンペラ画であり、
油はテンペラ画に奥行きや光沢を出すために補助的に使われていました。
日本人にもなじみ深いイタリアルネッサンスの名画の数々、
ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』、『春』、
レオナルド・ダ・ビンチの初期の頃の作品『受胎告知』なども、
テンペラ画で描かれたものです。
その後、3次元的な奥行き空間の再現に重きが置かれ、
また画面の深み、重厚感、光沢が好まれたため、
油で溶いた顔料で描く油彩画へと移行していきました。
また、大きな作品を容易に扱うことができるとして、
支持体も板に石膏を施した重いものから、
木枠に麻布を張った軽く持ち運びやすいものへと移行していきます。
その後産業革命を経てチューブ入り油絵具が浸透し、
今日の麻布の上に油絵具で描く『油彩画』のスタイルが定着していったようです。
テンペラ画の特徴
顔料と卵黄を混ぜあわせた絵具で描いたものです。
また、下地には平滑な板に石膏を塗布し、入念に磨きあげたものを使用しています。
1400年頃に当時の絵画技術を体系的に記した画家チェンニーニは、
その著書『絵画術の書』において、
『われわれの技法の中では、最も優美できれいなわざである』と記しています。